2018.6.29

原宿に唯一のお米屋「小池精米店」が売り上げを倍に伸ばした秘訣とは?小池代表にインタビューをさせていただきました。

Interview

Interview

CLIENT小池精米店   INTERVIEWER長田敏希・安田健一

 

どんなお米屋さんになりたいか、自分でもわからなかった

 

安田: そもそもなぜ、ブランディングをやってみようと思われたのですか。きっかけはあったのでしょうか。

 

小池: 父から事業を引き継ぎ、自分自身で新規のお客さまを開拓するために営業活動をしていたタイミングでした。すぐに東日本大震災があり、お米の買い占めや貯め込みが起こってしまったんです。お米を買いたいお客さまのニーズがあるのに、売るためのお米がなくて。在庫がない状況が続きました。そんな日々を過ごしていたなかで、「なぜ、お米屋さんを続けているんだろう」と自分自身を見つめ直していました。一種の迷いともいえるのでしょう。きっと立ち戻る指針のようなものがないからだと思い、なぜ原宿でお米を取り扱っているのか、今後どんな姿になっていきたいかを模索していたんです。長田さんとの出会いはちょうどそのころ。コーポレートアイデンティティという概念に辿りついて、トータルフードプロデューサーの平井巧さんに相談し、長田さんと打ち合わせすることになりました。まずロゴマークと名刺、ショップカードの制作をお願いしました。ロゴマークには米粒を使ったビジュアルを使い、屋号コピーには、三代目という文言を入れたんです。

 

安田: デザインやブランドという考えを導入する上で、難しい点などありましたか?

 

小池:いえ、とにかくわかりやすかったですね。初回の打ち合わせから、イラストや写真のイメージを多く使った資料が用意されていて、直感的に理解できました。それに、お米屋さんとしてどのような立ち位置の会社になりたいかをしっかり聞き出してくれて。強みや弱みなどのSWOT分析も、付箋を使って丁寧に整理されていきました。特に、最初のビジュアルづくりはワクワクしましたね。一つひとつのアイデアが面白くて。日本全国の米粒を丁寧にトレースしてデザインするなんて、自分じゃまず思いつかなかったアイディアですから。そのデザインは、名刺にも使っているんですが、交換するたびに必ず話のネタになる。もうほんとに大活躍してくれています。名刺のデザイン一つでこれだけ違うんだと驚きました。

 

長田: 確かに小池さんは、毎回の提案を面白がるパワーがすごかったです。それやりましょう! って判断がとても早くて。

 

小池: 自分では思いつかないことの連続だったんですよ。要望をたくさん言わせてもらいましたし、また長田さんをはじめとしたクリエイティブチームの方々にも、ブランディングの目指す方向をわかりやすくお話いただきました。やりたいことと、そのために何をすべきかをつないでもらった感じですね。

 

─ お米なんですか?と聞かれるお米が生まれた。

 

安田: ビジュアルや屋号コピーを含めたコピーを決めていくなかで、どんなことに変化がありましたか?

 

小池: テレビ番組や雑誌の取材を受けるようになりました。タイミング的なものもあるかもしれないですが、メディアの方が写真やホームページ、ブログなどを見てくれたのでしょうね。

 

安田: ブランディングと同時期に、新商品「あ・さ・ひ・ま・つ・光」の開発にも参加させていただきました。以前からこのアイディアがあったのですか?

 

小池: ブランディングを始めた当時、商品開発としてギフトになるお米をつくってみたいと思っていて。お米は普通、一キロ◯◯円といった売り方ですよね。でも、もっと新しい商品や売り方にチャレンジしたかった。そこで、東北のお米を食べ比べできる商品をつくりたいと相談させてもらったんです。東北の農家さんとそのお米を応援したいという想いも込めて。そうして、お米の名前を使った「あ・さ・ひ・ま・つ・光」が生まれた。ウチとしても話題性のある商品で、先日もぐるなびの「秘書が選ぶ手みやげ」というコーナーで選ばれたんです。パッケージを見て、まず目で楽しんでもらえる。審査会のような会場で五十名くらいの秘書の方とお話をしたら、「え? これお米なんですか?」と聞かれて。その反応は、新しいものだからという証だと思っています。

 

 

─ お米も人も、個性が大切。

 

安田: 「あ・さ・ひ・ま・つ・光」もそうですが、小池さんの活動はブランドスローガンにもある、「お米を楽しく」という考え方にマッチしてますよね。

 

小池: 原宿にタウンデザインカフェというお店がオープンした際、ワークショプをやってみないかと声をかけてもらったことがあります。「お米ゼミ」という企画をやりました。

 

長田: セミナーの客層に変化はありましたか。

 

小池: 第一回目はお米のイベントということもあって、関係者が多かったですね。ですが、ロゴやデザインで公の場に出る機会ができてから、ファンや農家さんが声をかけてくれるようになりました。今では、行政や飲食関連など、かなり幅広い業界の方々が来てくれています。いまJAの会報誌「地上」で連載記事を書いているんですが、それはブログを読んでくれた方がいたからなんです。ごはん生活研究所やごはんフェスのことも知ってくれて、JAや生産者や行政の方が、声をかけてくれました。連載は二年になります。また、お米がもっと楽しくなるような知識に触れられるごはん検定では、テキストの中身と問題をつくっています。実は、前職で教材の編集をしていたことがあり、その経験が生きていますよ。おにぎり協会のおこめクイズも二年やってるんですが、好評です。毎週月曜に更新していて、早いものでもう百回以上になります。

 

安田: 能登輪島米物語のコメントも斬新ですよね。お米の味を表現するのにシュワっとなんて、小池さんならではの文体という感じがしました。書くことも楽しんでいないと、ああいった表現はでないと思うんです。

 

小池: ありがとうございます。お米の味のように定性的なものをどう表現するかということには社労士として人事制度の構築に携わっていた経験が生きています。賃金は数字です。ですが、仕事における行動の評価は定性的なものです。項目やコメントは、人を評価するのと同じだと思うんです。単にうまい! とか、粘る! だけじゃ、個性にならないですよね。Yahoo! ニュースでは、そのような表現について評価をしてくれてうれしかった。考えてみれば、お米屋さんでそのような表現をする人って、あまりいないかもしれません(笑)。

 

 

─ 売上は過去最高、継いだときから約2倍になった。

 

長田: 小池精米店のようにブランディングを成功させた企業さまがたくさんいますよね。ブランドクリエイターとの付き合い方で意識されることはありますか?

 

小池: 私は自分は物知りではないと思っていて。クリエイティブチームの方々の知識や技術を、素直にすごいなと勉強させてもらっています。

 

安田: 私たちがメディアで取材を受けるときの正装として、ロゴ入りのシャツを着てくださいというPR のお願いをしました。今日もそうですね(笑)。いつも着ていただいてありがとうございます。ブランディング後の事業全体の売上はいかがでしょう。

 

小池: 売上額としては、過去最高です。三代目として継いだときからはほぼ2倍になりました。事業規模がそんなに大きくありませんが、右肩上がりです。ですが、いま、お米の価格というのも課題になってきていて。最近ではお米の販売以外の事業も積極的にしています。今年はイベント、講演会、本や雑誌での執筆、コマーシャルの出演等企業とのタイアップなども行っていこうと思っています。

 

安田: 行政の方はどんなことを質問されるのでしょう。

 

小池: 原宿という街で、精米店をどうやって成功させたのかといったことですね。おにぎりスタンドやセミナー、イベントでしている話をしています。

 

長田: そのイベントから商談につながりますか。

 

小池: 産地の方が特に声をかけてくれますよ。小池精米店としても、新規のお取引が決まった飲食店の方に、ウチにはお米のコンテンツがありますよ、とお話しするんです。そのカフェや飲食店でお米ゼミを開催してみましょうと、盛り上がっています。

 

 

 

─── お米は楽しい。そう伝える人は自分が初めて。

 

安田: ブランドとコンテンツをお米とセットで紹介されているんですね。あくまで、お米屋さんとしての活動という姿勢がブレないですね。

 

小池: お米って、自由化されてからまだ二十年ほどなんです。歴史の浅い商材だから、まだまだ売り方にも可能性が眠っていると確信していますし、生産者にもそう話しています。おにぎりを売るよりも、まだまだやりきった感じがしなくて。やっぱりお米を楽しいものと感じてほしい。健康、食糧安全保障も重要ですが、普通に楽しめるものとしてもっと広めていきたいです。

 

長田:「お米を楽しむ」をテーマにしたので、デザインやコンテンツも広げやすかったです。小池さんの掲げる楽しさは、生産者もお米屋さんも、一般の方々が食べるということも、参加しやすいテーマですよね。

 

小池: 実はお米を楽しくっていうテーマは少ないです。知識を売る人はたくさんいますが、お米の楽しさを創りだすという考えは今までなかったですから。

 

安田: 小池さん自身がイベントで話しているとき、楽しませるための工夫はありますか?

 

小池:専門用語は使わないことと、ウケなくてもオチは必ず入れること(笑)。お米を食べ比べた後、参加者が好きなお米にシールを貼るというのをやったことがありますが、これはよかった。座学をして、食べ比べて、ごちそうさまで終わりじゃなくて、もう一度お米に目を向ける時間がつくれました。たったシールを一枚貼るだけなんですけど、ちょっとの工夫で大分違うなと感じました。食べ比べしたからには、皆さんの意見を聞いてみたいなって思ったんです。

 

 

─ ウチの売り上げより、お米そのものを考えたい。

 

 

長田:  今後の夢、目標を教えてください。

 

小池: なんといっても、お米の消費拡大です。それに尽きます。人口の減少よりも、お米消費減少がスピードアップしているんです。ウチの売り上げ云々の前に、お米全体の需要を増やせるように頑張りたい。お米が選ばれるためには、個性を立たせないといけないと思っています。つまりブランディングですよね。いま、私は新品種の評価をしているんですが、お米の競争が起きるのはいいことだと思ってます。

 

安田: 新品種の評価ですか。どのようにされているんでしょうか。

 

小池: 地方のお米の試食について連絡がたくさん来ています。JAからの依頼で、いま 47都道府県のお米を食べ比べています。ただ僕は朝ごはんでしか試食と品評はしませんので、一日一品種のみ。なのですべて試食するのに2ヶ月近くかかりました。あと、体調が万全でないと味覚がズレてしまうので、この間はあまりお酒は飲めませんでした。二日酔いになってしまうと正しい判断ができませんから(笑)。子どものときから、毎朝、ちがう品種のお米を食べていたので、お米にたいする味覚はできていたんです。環境に恵まれていたんですね。ウチのお米は甘くて粘りがある、とほとんどの方がいいます。でも、その先の個性が大切なんですよ。

 

長田: 小池さんの言葉一つひとつに、お米を信じているという想いを感じます。

 

小池: 私は最初、企業に就職していたので、お米屋ではなかったんです。だから、父から継いだとき不安でしかなかった。そんなときにコーポレートアイデンティティというものを知って、自分の店の立ち位置や向かいたい方向がはっきりしたのが、本当によかったと思っています。ブランディングをやってから、自分の言葉で、お米屋という仕事を通して何をしたいのかを、自然と言えるようになりました。ロゴマークや社名は、自分の立ち位置を明確にしてくれます。将来的にはわかりませんが、ウチの息子の中で、お米屋さんになるというのも選択肢の一つになっていて。それ、親父としては結構嬉しいものなんですよ(笑)。

原宿・表参道という街で、80年以上前からお米屋さんを営む小池精米店。三代目となる小池理雄さんは、お米の楽しさを広めるために精力的に活動されています。過去最高の売り上げを達成しつつも、「お米の楽しさをもっと広めたいなぁ」とビジョンを語る小池さん。その言葉には、どこまでもお米を愛し、可能性を信じる熱い想いが溢れていました。

 

 

「お米を楽しむ」で、売上は過去最高に。

パッケージデザインの国際コンペティション『Pentaward』銅賞

ドイツ最大級のプロダクトデザイン賞 『iFデザイン賞』受賞

東北を代表するお米で、力強い美味しさを伝えたい。その想いから小池さんが東北の農家さんと話し合い、生まれた「あ・さ・ひ・ま・つ・光」。秋田県あきたこまちの「あ」、宮城県ササニシキの「さ」、岩手県ひとめぼれの「ひ」、青森県まっしぐらの「ま」、山形県つや姫の「つ」、福島県コシヒカリの「ヒカリ」。それぞれのお米からひと粒ずつ言葉を抜き出して名付けられました。

 

 

 

三代目 小池精米店のロゴマーク。

「全国四十七都道府県のお米と食卓をつなげたい。」という想いが込められています。小池さんが各県を代表するお米を選出した、県のお米の形状を一つずつ抜き出して、日本地図を形づくりました。それぞれのお米(農家)の個性を、四十七色のグラデーションにより表現しています。

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